2011年05月22日

御礼

 人は昨日のことを覚えている。

 もうそれは消えてなくなったというのに、そしていつか訪れない今日があるというのに、取り憑かれたように昨日のことを語り、描き、歌う。それは昨日があまりにも美しかったから。

 おかげさまをもちまして、歌集『Yesterday, it is beautiful.』は完売いたしました。お買い上げ、ありがとうございました。またときどき冊子を開いて、美しかった昨日の歌を愛でてやってください。

収録歌五首 (選:觜本なつめさん)

恋なんかしてる暇ねえ戦争をする暇もねえ貧乏過ぎて     渡辺タテタ

二年ぶりに歩いた通学路の脇の田んぼにファミリーマートが建った

本当は花火も野球も大嫌い。花火と野球と君が大好き

イクという宗教観を持っている俺らの腕の力が果てる

ヘッドフォンをはずしたあとの誰ひとり俺に興味を持たない渋谷
posted by 渡邉健太 at 02:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月19日

浴室思考(命)

「外側の記憶」     渡辺タテタ

恐竜が絶滅するよりもずっと前から、命は儚かった
地球最期の日だとか、人類滅亡の日には興味があるけど
自分が死ぬ日にはあまり関心がない

胸が痛むとここに胸があることに気が付いて
誰かが死ぬとここにも命があることに気付く
いつもはどこか心の外側に置いてある

それはよいこと

それはいつだって他人事

自分が死ぬ日については
いつもどこか外側に置いてある
posted by 渡邉健太 at 02:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月14日

東山動物園詩編

20110403130153.jpg

「檻の中は自由」     渡辺タテタ

アクシスジカの咀嚼(その群れは売店の中華蕎麦の匂いを気にしながら藁をはむ)

赤い矢印に誘われて、ライオンを隔離する巨大な堀の縁
白いペアのセーターを着た少女らは整列する
「キリンさんはライオンに食べられたんだって。だから赤ずきんちゃんはライオンのお腹を裂いてキリンさんを助けるの。」
旭川市出身のサンくん(九才)「勘弁してくれよ。おちおち寝返りも打てねえよ。」

ゴロー(ニホンカモシカ)、南の柵に寄ったまま、ちらちらとトラを鑑賞している

カリ(スマトラトラ、メス)、血の滴るユッケを食する
ルビリン(アムールトラ)「ちょっとカリ。ちゃんと噛んで食べないと太るわよ。」
カリ「やだ、私太ってる? もう自殺するしかないわ。」

マレーグマは勤勉なバスケットボール部員で、内股の後ろ脚で自殺ダッシュを繰り返す
サミュエル・L・ジャクソンが叫ぶ
"Put your hand on the line!"

白いセーターの女の子たちは、ふれあい動物園でヤギに餌をやる列に並んでいる
前歯の跡が残った梨を見て言う
「リスはね、すぐに尻尾が切れるの。そしてまた生まれてくるのよ。」

池の畔では献血をしていて、
池の上にはボートが浮かんでいて、
もちろん誰もがきちんと並んでいる
「ボートに乗るだけで別れられるなら楽でいいのにね。」

緊急地震速報ではないチャイムのあと、園内放送では迷子のお知らせ
ふしぎたんけんの館には親を待つヒトの子らがいっぱいで、
自由だ

帰りの名古屋市営地下鉄東山線
少女らは並んで歌う

「くるくるぽん!」
くるくるぽん!

「くにゃくにゃぽん!」
くにゃくにゃぽん!

「ひきこもり!」
posted by 渡邉健太 at 15:58| Comment(1) | TrackBack(0) | 詩歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月11日

再生の詩編

「ムーンシーカー」     渡辺タテタ

ある日、完全なる現在があらわれた

y=2x(ひとり帰る夜道の寂しさは、友人と過ごした楽しい時間の二倍に正比例する)
地球は温暖化していて、夜風は冷たい
赤信号に向かって女は走り出す
その手をつかまえて引止めるところを想像しながら、
俺はそれを見送った

車通りの少ない赤信号をひとり待つ
月を探そうと夜を見上げる
それは完全なる現在
女は去り、月はビルの向こうか新月か

月を探すことを諦めて視線を戻すと既に信号は青で
俺は慌てて交差点を渡る

女と同じ場所を、同じように走りながら、
信号の色は、進めと言う
posted by 渡邉健太 at 03:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月10日

PARADOX

 例えば可愛いチューリップを見た帰り道、好きな人と一緒に見たかったと思う寂しさは、好きな人がいるという幸福。

寒くても寒くなくてもひとりでも袖打ち振りて干すバスタオル     渡辺タテタ
posted by 渡邉健太 at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。